ばんえい競馬は世界中でただひとつの競馬です。
JRAや全国の地方競馬で知られる平地競馬とは全く違います。
世界中でも北海道の帯広市だけで行われているちょっと変わった競馬です。(もちろんいい意味で、です)
馬は騎手を乗せた鉄ゾリを曳いて、「パワー」「スタミナ」「スピード」を競います。
馬が曳く重量は、鉄ゾリだけで450㎏、更にクラスやレースに応じて「積載重量」が加算され、最高で1000kg、軽くても480㎏になります。
この鉄ゾリと積載重量を合わせた重量が、出走表に表示される「ばんえい重量」と呼ばれます。
レースは200mの直線ダートコースで行われ、その途中にある第一障害(小さい坂)、第二障害(大きい坂)と呼ばれる大小ふたつの障害を越えてゴールを目指します。
「障害」を越えるといっても、JRAで見られる障害レースのように、華麗に軽やかにピョンピョンと跳び越えるわけではありません。
ばんえい競馬でいう「障害」とは小山の形をした「坂」のことです。
重たい鉄ゾリを曳くばんえい競馬では、通常、第二障害(大きい坂)を越える手前で馬を一旦停止させます。
そして、馬の息を整え、スタミナを回復させ、パワーを溜め込み、相手の出方を窺いながら、いざ、坂越え!となります。
ばんえい競馬ではこの第二障害が最も難関で、ズバリ勝負どころです。
馬は、騎手の呼吸と気合に合わせてドスドスと坂を登り始めます。
騎手は、馬の呼吸と歩調に合わせて手綱で馬をコントロールします。
一度で坂を登りきれない場合でも、上体を立て直し、二度三度と繰り返し坂越えに挑みます。しかし、なかにはヒザをついたり、バランスを崩して転倒してしまう馬もいます。(ちなみに、転倒しても再び起き上がり制限時間内にゴールすれば「失格」とはなりません)
気合と根性で首尾よく第二障害を越えるとゴールは目前です。
あとは最後の力を振り絞ってひたすらゴールを目指します。
そして、ゴール前の直線もまた、ばんえい競馬の見所のひとつです。
ここから先は、騎手の意思で馬を止めることは許されません。
騎手は、踊るようなパフォーマンス(?)で必死に馬を励まし、その意思を馬に伝えます。
馬は、その意思に応えて力の限り前へ前ヘと進みます。
ばんえい競馬では、鉄ゾリの後端がゴールラインを完全に通過しなければ「ゴール」と見做されません。
あと少し・・・というところで、パタリと止まってしまう馬もいます。それがゴール線上という場合もあります。
そんな時は、スタンドから「ワッ」と大きなどよめきが起こります。
レースの実況アナウンサーも思わず絶叫します。
ばんえい競馬は、競走しているはずの馬が止まってしまうこともある競馬です。
目前の当り馬券がほんの一瞬でハズレ馬券に変身します。また、その逆の場合もあるでしょう。
最後の直線、疲れた馬は自分の「意思」で止まります。
しかし、「意思」の強い馬はヘトヘトになりながらも、懸命に騎手やファンの期待に応えようとしてくれるでしょう。
ばんえい競馬とは、そんな競馬です。